そういう景色のように、美しい人


【资料图】

如那般风景一样美丽的人

あれは夢の、いつも行く場所。

那是我梦中常去的地方。

今は朝で、自分の部屋。

现在是早上,在我的房间里。

布団の上で、私は秒で理解する。ちりんちりんと、窓辺の風鈴が小さく鳴っている。海の匂いのする風が、レースのカーテンをゆっくりと揺らしている。あ、湿ってる、と、枕につけた顔で思う。寂しさと喜びの混じった痺れが、指先と足先にうっすらと残っている。私シーツにくるまったまま、その自堕落な甘やかさをもうちょっとだけ味わおうと目をつむる。と、

「鈴芽―っ、起きた―?」

在被褥中,我一下子就醒过来了。窗边的风铃轻轻地发出叮铃叮铃的声音,蕾丝窗帘正在被带着海香味的微风慢慢摇晃。啊,它是潮湿的,我把脸埋在枕头里想。一种混合了孤独和兴奋的麻木感在我的指尖和脚趾间隐隐徘徊。我就这样放任自己在被窝里闭上眼睛想多回味一下这懒散的感觉。然后,

“铃芽!起了吗?”

階下から、ちょっと苛ついたような大声が響いた。胸の中で溜息をつき、よっこらしょと体を回し、「起きた―」と大声を返す。さっきまであったはずの夢の余韻は、もうすっかり消え失せている。

楼下传来了听起来响亮又有些急躁的声音。我在心中长叹了一口气,慢慢的转动着身体,大声喊道:“醒啦!”明明刚刚还挥之不尽的梦到现在已经完全消失了。

『九州全域は広く高気圧に覆われ今日は爽やか青空に恵まれでしょう!』

テレビ宮崎のお天気お姉さんが、魔法少女のステッキみたいなカラフルな棒で九州をぐるりと囲みながら、にこやかに喋っている。

“因为九州全域都被大范围的高气压覆盖所以今天将迎来清爽的晴天!”

宫崎电视台的天气预报小姐姐正在微笑着讲话,就像是拿着魔法棒的魔法少女一样用五彩缤纷的手杖围着九州画圈。

「いただきま―す」

私は手を合わせてから、厚切りの食パンにどさっとバターを乗せる。私、ちょっと好きだな、この人。バターをザリザりと伸ばしつつ、お天気お姉さんを眺める。雪国めいた肌の白さが、なんとなく北国の出身かなと思わせる。バリッ。パンをかじると、香ばしい音が立つ。おいしい。焦げ目の内側はしっとりと甘みがあって、それをバターの濃厚さが引き立てていて。うちの食卓の材料は、いつもちょっとだけ高価なのだ。本日の最高気温は二十八度、暑さはやや緩み、九月らしい過ごしやすい一日となりそうです。お天気お姉さんのイントネーションは完璧な標準語だ。

“我开动啦”

双手合十后,我把黄油涂抹在了厚切的面包片上。我有点喜欢这个人呀。当我在面包上一点一点涂抹黄油时,我看向了天气预报小姐姐。她的肌肤像雪一样白,让我不禁觉得她可能来自北方,“啪嗤”我咬了一口面包,面包发出了一种脆香的声音,太好吃了。焦香的面包内部还很湿润,并且甜甜的,这是浓厚的黄油所发挥出来的口感,我家在饭桌上所用的材料一直是贵一点的。“今日最高气温二十八度,盛暑稍有缓解,天气有望和九月一样舒适” 天气预报小姐姐的语调是非常标准的日本语。

「あんた、今日はお弁当忘れんですね」

台所から、ちょっと責めるような口調で―私が勝手にそう感じるだけかもしれないけど—、環さんの宮崎弁が言う。「はい」と深刻すぎない反省を口調に混ぜて私は返す。環さんが毎朝作ってくれるお弁当を、私は時々学校に持っていくのを忘れてしまうのだ。わざとじゃない。わざとじゃないけれど、お弁当を持たない日はほんの少しだけ解放感がある。「仕方ない子ね」と、環さんはお弁当を詰めながら赤いグロスの唇を尖らせる。エプロンの下はすらりとしたベージュのパンツスーツで、マッシュショ―トの艶も大きな瞳をぐるりと飾るメイクも、環さんには相変わらず隙がない。

“今天不要忘了带便当啊”

从厨房那里传来了略带指责的语气,也许是我故意往那方面想了吧,这个是环姨妈的宫崎方言。“好~”我用毫无反思意味的语气回答道。我有时会忘记把环姨妈每天做的便当带到学校,这不是故意的,虽说我不是故意的,但在我不带便当的日子里,我感到了些许解放感。“真是拿你这孩子没办法!”环姨妈一边装着便当一边撅起了她那红艳的嘴唇,她的围裙下面是一套修长的米色西服套装,她还是一如既往装扮的那么的天衣无缝,无论是她那干练的短发,还是她那通过化妆妆饰的卡姿兰大眼。

「それから鈴芽、私、今夜ちょっと遅くなるわ。晩ご飯適度に済ませてくれん?」

「えっ!環さんデート⁉」

ごくんっ、頬張った目玉焼きを私は慌てて飲み込む。

「いいよいいよ―、ごゆっくり!何なら十二時過ぎちゃっても大丈夫ですだから!たまには楽しんでおいでよ!」

「デートじゃなくて、残業!」と、私の期待に蓋をするように環さんは言う。

「漁業体験の準備。そろそろ迫っちょるかい、いろいろ処理せんといかんとよ。はい、お弁当」

Lサイズのランチボックスを、私は手渡される。それは今日もずっしりと重い。

“铃芽还有,我今晚回来晚点,晚饭随便凑合一下呗。”

“诶!环姨妈有约会吗?”

咕咚(咽下食物的声音),环姨妈急忙吞下了刚吃进嘴的煎蛋。

“诶没事,没事~慢慢吃嘛,这样的话过了十二点再回来也没事,偶尔也要开心一下的嘛。”

“不是约会!是加班!”仿佛是要打消我的念头一样,环姨妈赶紧说道。

“为渔业体验做准备的截止时间差不多要到了,我们要处理很多事情的!给,你的便当。”

环姨妈递给我的是一个L形的午餐盒,今天的便当依旧很沉。

……………………………………………………………………

空はお姉さんの宣言通りにの快晴で、何羽かのトンビがずっと高い場所を得意げに舞っている。私は海沿いの坂道を自転車で下っている。制服のスカートが、深呼吸をしているみたいにばたと膨らむ。空も海も嘘みたいに青く、土手の緑はどこまでも瑞々しく、水平線をなぞる雲は生まれたてのように白い。こんな場所を自転車で通学する制服姿のわたしは、けっこうSNS映えするんじゃないかなとふと思う。朝日に輝く古い港町を背景に、手前の坂道にはペタルを漕ぐ制服姿。そんな写真を思い浮かベル。潮風になびく高めのポニーテイルと、ピンク色の自転車と、青いを背景にした少女の華奢な(たぶん)シルエット。まいったなこりゃ、だいぶいいね!がついちゃうな。......こちん、と、心の端っこがふいに硬くなる。ふーん。と、私の中の一部が呆れる。海を見ながらそんな気分なんて、ずいぶんお気楽だね、君。

天气如小姐姐所说的那样晴朗,几只老鹰在高空中自信的翱翔。我沿着海边的坡道向下骑着自行车,制服的裙子像是被人吹了一大口气一样膨胀起来。天空和大海湛蓝的不真实,提拔上的绿色植物让它散发着清新的味道,那跨过水平线的云像刚出生一样雪白。我突然觉得在这样的地方骑自行车穿着制服上学的我难道不应该拍一张照发到SNS上吗。以闪耀着朝阳的古老巷口为背景,在前面的坡道上蹬着脚踏车穿着制服的姿态。我的脑海中浮现出了这样的场景,在海风中飘舞着的高马尾,粉色自行车和以蓝色为背景,少女那纤细的轮廓(大概 (•̀ω•́)。糟糕!这下可好了,不要这样!突然,我的心猛地一紧,我自己都不相信我会这么想。看着大海竟然还有这样的心情,你可真是闲得很呐。(这部分应该是铃芽的内心自我吐槽)      

私は 小さく息を吐く。ふいに色褪せてしまったように見える海の青いから、目をはがして前を見る。と、

「!」

誰かが、歩いて坂を登ってくる。町外れのこのあたりを歩いている人なんて極めて珍しいから、私はちょっと驚く。大人たちは百パーセント車移動だし、子供たちは大人の車に乗せてもらうし、私たち中高生は自転車か原付バイクだし。

我缓缓的呼了一口气,突然就仿佛是从褪了色一样的湛蓝大海中回过神来,我睁开眼睛看向前方时——

“!”

是有人走着登上了坡道,因为在城外这一代走着来的人是很少见的,所以我有些吃惊。大人的话百分百会选择开车,而孩子们会坐在大人的车上,我们中学生则会选择骑自行车或者摩托车。

——男の人だ、たぶん。すらりと背が高く、長い髪と白いロングシャツが風になびいている。私はかすかにブレーキを握り、自転車のスピードをすこし緩める。しだいに近ずいてくる。見知らぬ青年ーー旅行者かな。山登りみたいなリュックを負っている。日焼けしたジーンズに、大きな歩幅。すこしウェーブした長い髪が、海を眺める横顔を隠している。私はまたすこしだけ、ブレーキを握る手に力を込める。すると、ふいに海風が強くなる。青年の髪が風に躍り、その目元光が当たる。私は息を呑む。

是个男人,大概。身体修长,有着长长的头发,身上的白色长衫在随风飘荡。我轻轻捏住刹车,放慢自行车的速度,我们在逐渐靠近。是个陌生的青年——旅行者吧。背着一个像登山用的背包,一条像是被晒黑了一样的牛仔裤,步幅很大地走来。有一点波浪的长发遮住了他那眺望大海的侧脸。我捏着刹车的手更紧了一些。然后,海风突然变强了,青年的头发在风中飘扬了起来,双眼被阳光照射着,我屏住了呼吸。

「きれい」

口が勝手に呟いていた。青年の肌は夏から切り離されたように白く、顔の輪郭は鋭くて優雅。長い睫毛が、すっと切り立ったか頬に柔らかな影を落としている。左目の下には、ここにあるべきなんだという完璧さで小さなほくろがある。そういうディティールが、どうしてか間近で見ているような解像度で私の目に飛び込んでくる。距離が縮まっていく。私はうつむく。私の自転車の車輪の音と、青年の足音が混じり合う。鼓動が高まっていく。五十センチの距離で、私たちはすれ違う。私は、私たちは——心が言う。全部の音がゆっくりになっていく。私たちは、以前、どこかで——。

“好美.....”

我的嘴擅自嘟囔出了声,青年的肌肤就好像没过过夏天一样白皙,脸的轮廓棱角分明且优雅,长长的睫毛在他那直挺的脸颊上留下柔软的阴影,左眼下面有一个恰到好处的痣。这样的细节不知道为什么以近距离观看的分辨率映入了我的眼帘。距离越来越近了,我低下了头,自行车车轮的声音和青年的脚步声混在了一起。我的心跳加速了起来,在只有五十厘米距离的时候我们擦肩而过,我的,我们的心里好像在诉说着什么,此时,所有的声音都变慢了,我们以前是不是在哪……

「ね、君」

柔らかくて低い声。私は立ち止まり、振り返る。その間の1秒の風景が、やけに眩しい。目の前に、青年が立っている。まっすぐに私の目を見ている。

「このあたりに、廃墟はない?」

「はいきょ?」

予想外の間いに、漢字が追いつかない。ハイキョ?

「扉を探しているんだ」

「とびら?廃墟にある扉ってこと?」

自信のない声が出る。

“嗨,你”

是个柔和而又低沉的声音。我停下了车,回头看去。那一秒的风景显得格外耀眼,我的眼前站着一个青年,正在直直的看着我。

“这附近有废墟吗”

“废墟?”

我没有跟上这出乎意料的问题,feixu?

“我在寻找门”

“men?废墟中的门?”

我发出了没什么自信的声音。

「......人の住まなくなった集落だったら、あっちの山にありますけどぁ......」

青年はにっこりと微笑む。なんて言うか、周囲の空気ごと優しく染めるような、とてもきれいな微笑。

「ありがとう」

青年はくるりと背中を向けて、私が指差した山に向かってすたすたと歩いて行く。

さっばりと、すこしも振り返ることなく。

「.......は?」

間の抜けた声が、思わず口から出てしまう。ぴーひょろろーと、トンビが高く鳴いている。え、だって、なんかあっけなくない?

“如果是没人居住的村落的话,就在那边的山上.....”

青年微笑着,怎么说呢,就好像连周围的空气都被他的温柔所传染了一样,是非常漂亮的微笑。

“谢谢”

青年转过身,飞快地朝着我指的山那边走去,非常潇洒,不带一丝犹豫。

“哈?”

略显愚蠢的声音从我嘴中不由自主的发了出来。啾—啁啾—,老鹰在高空中鸣叫。嗯?总觉的自己是不是太天真了?

頭のすぐ上で、カンカンカンと警報が鳴っている。踏切を待っている私の鼓動は、まだすこしだけ速い。あの人、なんだったんだろう——交互に点滅する赤を眺めながら、私は考えている。芸能人とかモデルとかって、実際に会うとあんな感じなんだろうか。ちょっと非日常的に美しくて、目撃後もしばらく興奮が残るような。......いや、違う。たぶんぜんぜん違う。あの人は、たとえば——。

“叮叮叮叮——”我的头顶上响着列车的警报,在铁道口闸前等待列车通过的我,心跳的还是有些快。那个人是干什么的呢?我一边看着交替闪烁的红色信号灯一边想着,是艺人或者模特么,实际见面的话就会有这种感觉吧,他还有点非寻常的美感,见到后还会让人持续激动一段时间那种。……不不,不是,大概也完全不是这样,那个人,举个例子的话……

街灯に照らされた雪景色とか。てっぺんだけ朝日を浴びている山頂とか。手の届かない高さで風にほどかれていく、真っ白な雲とか。イケメンっていうよりは、そういう景色みたいに綺麗な人だった。そして私は、その景色をずっと昔に見たことがあるような気がするのだ。そうだ、夢でいく草原の、あの奇妙な懐かしいさのような——。

被路灯照射的雪景之类的,只有峰顶被朝阳沐浴的山峰之类的,又或者是在手达不到的高度那被风吹走的白云。与其说他是个帅哥,倒不如说是如这般风景美丽的人。而且我有一种好像以前在哪见过这样景色的感觉。对了,是我梦中的那片草原,那奇妙而又令人怀念的感觉——

「す——ずめ!」

とん、と後ろから肩を叩かれた。

「おはよ!」

「あ、絢。おはよう」

走ってきたのか、ボブの黒髪と息を弾ませた絢が隣に立つ。

二両編成の短い列車が目の前を通過し、遮断機のバートスカートを風で揺らす。他にも登校中の生徒たちの雑談が周囲に満ちていることに、今さらに気づく。昨日の配信観たー?とか、寝不足でやべっちゃわとか、皆楽しげに話している。

「あれ?鈴芽あんだ、なんかちょっと顔赤くね?」

「えっ、うそ!赤い⁉︎」

思わず両手で自分の顔を挟む。え、熱い。

「赤けーね。どんげしたん?」

眼鏡ごしの不審そうな瞳が、私の顔を覗き込む。どう答えようかと迷っていると、時間切れみたいに唐突に警報が止まり、遮断機のバーが上がっていく。踏切に溜まっていた皆が、一斉に歩き出す。

「……どんげしたんと?」

ひとり止まったままの私を振り返り、今度はちょっと心配そうに絢は言う。——景色みたいな人。あのデジャヴ。私は自転車の前輪を持ち上げる。

「ごめん、忘れ物思い出した!」

“铃——芽”

突然有人从背后拍了我的肩膀。

“早上好!”

“啊,绚,早上好”

不知道是不是跑来的,有着齐颈短发的绚喘着气站在了我旁边。

由两节车厢所组成的列车从我眼前经过,带来的风晃动着栏路杆和我的裙子。这时我才注意到,周围充满了和我一样去上学的学生们的聊天声。看昨天的直播了嘛?之类的,是不是睡眠不足哇?之类的,他们都在开心的聊着。

“诶,铃芽,你的脸是不是有点红啊”

“嗯?是吗,红吗!”

我的双手不知不觉的抚上了脸颊,诶,好烫。

“很红呢,怎么啦”

她那隔着眼镜都透露出很可疑的眼神在盯着我的脸,当我还在犹豫该怎么回答的时候,就好像切断了时间一样,警报停止了,断路器的栏杆上升了,挤在路口的大家一起走了起来。

“怎么了?”

绚回头看向了停在原地的我,这次是带了些许担心的语气。——像那风景一样的人,那种似曾相识感,我抬起了自行车的前轮。

“抱歉!我想起来我忘拿了个东西”

方向転換して自転車にまたがり、来た方向に漕ぎ出す。え、ちょっとちょっと鈴芽、遅刻するが!背中の声が遠ざかっていく。朝日の圧力で背中を汗ばませながら、私は立ち漕ぎで山に向かう。すれ違う軽トラのおじさんに、高校とは反対方向に急ぐ制服姿をじろじろと凝視される。私は県道のアスファルトを逸れ、古いコンクリートで固められた山道に入る。とたんに、海の音が蝉の音に塗り替わる。自転車を雑草の中で停め、「立ち入り禁止」のバリケードをまだぐ。ほとんど獣道のような薄暗い細道を、私は早足で登っていく。あれ、一限目の授業にはもう間に合わないじゃん。山を登り切り、眼下に古い温泉郷が見えたところで、私は息を吐きながらようやくそう思った。

我把自行车转了个方向,向我来时的方向蹬去。诶!等会等会,铃芽!要迟到了哦。我后背的喊声渐渐消失了。在清晨阳光的照射下,我一边流着汗一边向山那边蹬去,还被擦肩而过开着轻型卡车的大叔疑惑的盯着这个穿着制服还往学校反方向跑的人。我离开了县道的柏油马路,转入了一条古老的,用混凝土覆盖的山道。刹那间,大海的声音被蝉鸣覆盖了。我把自行车停在了杂草之间,跨过了【禁止进入】的路障,快步登上了一条像是野兽小路一样昏暗的狭窄小道。在我爬上了山,看到下面古老的温泉村后,我叹了口气想,嗯,反正我第一节课也赶不上了。

うっすらと、硫黄の匂いが漂っている。昭和の終わりから平成の初めにかけて、この辺りは大きなリゾート施設だったそうだ。今からじゃ想像もつかないくらい景気も良くて人も多かった時代に、日本中から家族や恋人や友達グループなんかがこんな山奥までやってきて、温泉に入ったりボウリングをしたり馬に人参を上げたりインベーダーゲームに興じたり(知らないけど)していたのだ。ちょっと信じられない。それでも草に埋まれた集落のあちこちに、そのにぎやかさの余韻は残っている。錆びた販売機や破れた赤提灯、日灼けした温泉パイプや蔦の絡まった看板、山積みになった空き缶や、そういう種類の植物のように頭上で渦を巻いているおびただしい電線。私の住んでいる集落はおろか、高校のある町の中心部と比べても、ここの廃墟の方がずっと物に溢れている。

空气中飘着一股淡淡的硫磺味,在昭和末期到平和初期的这段期间,这个地方曾是一个大型的度假村。在这个现在看来都无法想象的经济繁荣,人丁兴旺的时代,来自日本各地的家庭,情侣,好朋友们都会来到这深山,享受温泉,打保龄球,给马喂萝卜,或者玩那种外星侵入电子游戏(猜的)。这听起来虽然有点不可置信,但在这些杂草丛中埋藏的村落中仍然有着往日那般热闹的余韵。生锈的自动贩卖机和破损的红灯笼,被阳光照射受损的温泉管和那被常春藤缠住的广告牌,成堆的空罐子和一些奇怪的全新金属罐子,还有像植物一样在头顶盘旋的电线。别说是我住的村落了,这里和我高中所在的城市中心相比,东西都要多的多了。

「あの—、すみません—!」

それなのに、人の姿だけがない。いつしかお湯が涸れ、お金が涸れ、人が涸れてしまったのだ。夏の陽射しが廃墟をアトラクション的にポップに照らしくれてはいるけれど、さすがにちょっと不気味だ。私は草でひび割れた石畳を歩きながら、必要以上に大声をあげる。

“那个,请问——”

然而,这里唯独没有人的踪迹,不知道什么时候温泉枯竭了,没有钱了,连人都不见了。夏天的阳光让废墟像是被舞台灯光照射一般凸显出来,还是有点令人毛骨悚然的。当我走在长满草的破碎鹅卵石上时,我喊的声音要比我想象中的大。

「いますか—、イケメンの人ぁ―っ!」

だって、他に呼びようがない。私は小さな石橋を渡り、かつてこのリゾートの中心施設だったらし廃ホテルへと向かう。円形のコンクリート建築で、周囲の廃屋に比べてひときわ大きく目立っている。

「おじゃましま―す……」

広々としたホテルのロビーに、私は足を踏み入る。瓦礫が散乱した床には幾つものソファ―並び、窓にはちぎれた巨大なカーテンがずらりと垂れ下がっている。

「こんにちは―!ねえ、いますか―?」

“在吗?那个帅哥!?”

因为没有别的称呼了嘛。我穿过一座小石桥,来到了一个类似度假村中心地带的废弃酒店,它是一个圆形的混凝土结构,与周围的建筑相比显得格外突出。

“打扰了——”

我踏入了宽敞的酒店大堂,几张沙发放在堆满碎片的地板上,窗户上垂落着巨大的破损窗帘。

“你好——,嘿,在吗?”

あたりを見回りしながら、薄暗い廊下を歩く。暑い日のはずなのに、実はさっきから背中にぞくぞくと悪寒がある。廃墟なめていたかも。私はなおさらに大声を張り上げる。

「あの、わたし―っ!あなたと―っ、どこかで会ったことがあるよう気が―っ!」

口に出してみて、なんだかな、とふと思った。だって、これじゃナンパの常套句だ。

……帰ろっかな。なんだか急にばからしくなる。今さらに恥ずかしくなる。あの青年に会えたとして、私はどうするつもりだったのだろう。もし逆の立場だったら、もし道を尋ねただけの相手がどこまでも私の跡を追いかけてきたとしたら、それはちょっと、だいぶ怖い。ていうかこの場所がそろそろ本気で怖い。

「かーえろ!」

ことさらに明るく大きな声で、私はくるりと方向転換する。—と、目の端にちらりと映ったものが、私の足を止めた。

「……扉?」

我一边在灯光昏暗的走廊下行走一边环顾四周,明明还是很热的季节,但从刚刚开始我的后背就感到了阵阵寒意,我是不是太小看这个废墟了,我用比刚刚更大的声音喊了起来。

“嘿!我——好像——有一种在哪儿和你见过的感觉——!”

当我喊出来后,不知怎的,突然想到,这,这不是搭讪的常用语嘛。

要不回去吧……感觉自己突然变成了个傻子,现在才开始感到羞耻?就算见到了那个青年我又打算怎么办呢。反过来看的话,如果有个向我问路的人不管我走到哪都跟着足迹追上来的话,那这就有点,已经是恐怖的程度了,话说回来这个地方变得越发恐怖了。

“回去咯!”

我用更大的声音喊了起来,然后我转过身,突然余光好像瞥到了什么东西,我停下了脚步。

“门?”

廊下から出ると、そこはホテルの中庭だった。すっかり天井の落ちたすかすかの鉄骨ドームの下に、百メートル走が出来そうなくらいの広さの円形の空間があり、地面には透明な水が薄く溜まっている。その水溜まりの中央に、白いドアがぽつんと立っていた。他にもレンガとかパラソルの残骸とかが散らばっている中で、そのドアだけは誰かから特別に許されたみたいに、あるいは崩れることを禁止されてしまったかのように、孤独にくっきりと立っていた。

出了走廊,那里是酒店的中庭院子,在破旧的钢制穹顶下,天花板已经完全塌陷了,有一个看起来可以跑100米一样的圆形空间,地面上有一层浅浅的水,在这滩水中间立着一扇白色的门,周围还散落着一些砖块和遮阳伞的残骸,还有这扇门,就好像被什么人特别允许了一样,又或者有什么禁止毁坏的标签一样,在中间孤独而又挺立的待着。

「あの人、扉って言ってたよね……」

なんだか言い訳のように私は口に出し、ドアに向かう。中庭へと降りる低い石段の途中で、足が止まる。雨水なのか、それともどこかからまだ水が来ているのか、タイル敷きの床に溜まった水には十五センチほどの深さがある。ローファーを濡らしていのかな—と思った次の瞬間には、私は水の中を歩いていた。靴に水が入る触感にふいに懐かしみを感じ、予想していなかった水の冷たさに驚き、でも歩きながらすぐに、私はそういう全部忘れた。

“那个人,好像提了什么门吧”

我脱口而出的说道,就好像在找什么借口一样,向那扇门走去。我在通往中庭的低矮台阶上停了下来,是雨水吗,还是不知道从哪来的水,在这瓷砖地板上留下了大概十五公分的深度。当我还在想这水会不会把我的鞋浸湿的时候,我早已踏进了这水中。突然,我对这种鞋子进水的触感感到了一丝怀念,而且让我惊讶的是这水没有我预想的那么凉,但是当我走向这扇门的时候,我已经把这些全部抛到脑后了。

目が、なぜか離せない。すぐ目の前に、白い扉が立っている。古い木のドアだ。蔦が絡まり、所々ペンキがはげて茶色い木目が露出している。そのドアがほんのすこしだけ開いていることに、私は気づく。一センチほどのその隙間がこんなに暗いのだろう。私は気になって仕方がない。耳のひだに、風の音がかすかに吹き込んでくる。真鍮色の丸いドアノブに、私は手を伸ばす。指先でそっと触れる。そっと触れただけなのに、きい、と音を立て、ドアが開く。

不知道为什么我移不开视线。就在我眼前,一扇白色的门立在那里,是一扇古老的木门,它被常春藤缠住,有些地方的油漆已经脱落,露出了木材的棕色纹理。我注意到那扇门是微掩的,只有一英寸左右的缝隙是怎么做到这么黑的?所以我在意的不得了,微弱的风声在我耳边吹着,我把手伸向了那个黄铜色的圆形门把手,用指尖轻轻一碰,但只是这轻轻一碰,吱的一声,门开了。

「―っ!」

声にならない息が漏れた。

ドアの中には、夜があった。

満天の星が、嘘みたいな眩しさでぎらぎらと光っている。地表にはさんざめく草原が、どこまでも続いている。頭がおかしくなっちゃったのかもという恐怖と、夢を見ているのかという混乱と、知っていたはずだよねという合点が、濁流みたいに渦を巻く。私は左足を水から待ちあげて、草原に一歩踏み込もうとする。ローファーの底が草を踏む、その触感が頭に浮かぶ―と、ぱしゃん、靴はまた水を踏んだ。

「えっ!?」

そこは真昼の中庭だ。星空の草原じゃない。

「ええっ!?」

慌てて周囲を見渡す。変わらぬホテルの廃墟だ。ドアを振り返る。ドアの中には、そこだけ夏から切り離されてしまったかのように、ぽっかりと夜がある。

「なんで……」

“—— ”

我突然喘不过气了。

这扇门的后面,是黑夜。

满天的繁星在疯狂的闪着光芒,地面上那绵延不尽的草原。有一种脑袋要变得奇怪起来的恐怖感,一种仿佛在做梦的混乱感,以及一种我应该知道这一切的感觉,它就好像一条浑浊的溪流一样在我身边流荡。我抬起了在水中的左脚,踏入了那片草原。我的休闲鞋踩着草地,脑海中浮现出了昔日的感觉。——噗嗤,我的鞋又进了水里。

“嗯?”

眼前是白天的酒店中庭,不再是那星空中的草原了。

“嗯嗯?”

我慌张的向四周看去,周围还是一成不变的酒店废墟,我回头看向门,那里就好像是与夏天分离开来了一样,只有夜晚。

“为什么……”

考えるようとしたのに、体が駆け出していた。ドアが迫る。星空が迫る。ドアをくぐる―と、そこは廃墟である。慌てて振り返る。ドアの中の星空に、もう一度駆け込む。それでもやっぱり、そこは廃墟。草原には入れない。入れてもらえない。後ずさる。と、靴が硬い何かにあたり、コオォォォン……と澄んだ鐘のような音が響いた。驚いて足元を見る。……お地蔵さま?小さな石像が、水面から頭を出している。稲荷像みたいに大きな耳のついた逆三角形の顔に、糸状に細めた目が彫られている。私はじっと見つめる。そうせずにはいられない。まるで話しかけられるように、ざわざわとした風の音が耳で巻いている。両手を石像に触れる。そのまま待ち上げると、引き抜くような触感があり、ボコ、と水中に大きな泡が昇った。両手に待った石像を見下ろす。短い杖のような形に底が尖っている。地面に刺さっていたってこと?

「冷たい……」

我本来还想思考一下的,但我的身体已经擅自跑了起来,我靠近了大门,里面的星空也隐约可见,但我穿过门后,里面还是一片废墟,我慌忙再次转身,再次一头撞进那门中的星空,然而,果然,那里仍是废墟。我进不去那片草原,它不让我进去!我向后退去,然后我的鞋子碰到了什么硬的东西,叮叮——一个清脆的铃铛声回荡在了我耳边,我惊讶的看了看我的脚,——地藏大人?一个小小的石像从水中探出头来,它那张倒三角的脸上长着一双大大的耳朵,眼睛被雕刻成了狭长的线状,就像狐仙一样。我盯着它,我不得不这么做,就仿佛在和我说话一样,佛晓的风声在我耳边缠绕着,我的双手摸向了这个石像,就这样等待的时候,我感觉到了一种被拉出来一样的触感,啵叩,一个大泡泡在水中升起,我低头看了看捧在手里的石像,它就像是一个底部很尖很短的手杖,那它刚刚是不是被卡在了地里?

“好冷……”

凍っているのだ。薄い氷の膜が私の体温に追い立てられるように溶けていき、雫なってぽたぽたと落ちる。なぜ。どうして夏の廃墟に、氷があるのか。私は扉を振り返る。ドアの中には確かに、星空の草原がある。確かにあるように、私の目には見える。

ドクン!

突然、石像に体温を感じた。見ると、両手は毛に覆われた柔らかな生き物を掴んでいる。

「きゃあっ!」

両手から全身に鳥肌が走り、私はとっさにそれを放り投げた。ぼちゃん!と離れた場所に水柱が上がる。と、それはパシャパシャパシャ!と激しく飛沫を上げて、水中を素早く走り出した。小さな四つ足動物のような挙動で、中庭の端の方に去って行く。

「えええええ!?」

え、だってだって、石像だったよあれ!

「うわああ……怖っ!」

私は堪らずに、全力で駆け出した。嘘だよね夢だよねそれともこういうことってわりと頻繁に起きているのかな皆実は体験していて言わないだけなのかなうんきっとそうだよねそうに違いない!一秒でも早く教室に行き、この出来事を友達と笑い飛ばさなければ。それだけを考えながら、私は来た道をひた走った。

它被冻上了,一层薄薄的冰正在被我的体温所慢慢融化,变成了水滴滴落下来。为什么?为什么在夏天的废墟里会有冰?我回头看了看门,门的里面确实有星空和草原,至少在我的眼里,它确实在那里。

咚!

突然间我在石像上感觉到了温度,低头一看,我的双手抓着的是一个毛茸茸,非常柔软的生物。

呀啊!

我迅速起了一身鸡皮疙瘩,赶紧把这玩意扔了下来,噗通,他掉落的地方溅起了水花。突然,啪塔啪塔啪塔,溅起了一阵激烈的水花,并飞速的跑离了水面,它就像个四腿小动物一样,朝着院子边缘离开了。

“嗯嗯嗯嗯嗯?”

嗯?这,这不是个石像吗?

“哇啊啊啊 ((((;°Д°))))  ,好恐怖!”

我再也忍不了了,飞快的跑了出去,骗人的吧,我在做梦吧?还是说这种事情实际上经常发生,大家也都遇到过,只是因为都没有说出来?是的,一定是这样!我必须要赶快到教室,和朋友们一起分享这件事。我一边往回跑着,一边想道。

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