ネコ


(资料图)

うん

しばらく預かってもらいないかな

めんどくさい 

まぁ そういわないで

急な仕事が入っちゃってさ

少しの間家を空けることになりそうなんだ

あのな

ちょうどいいかなと思って

だって 式はしばらく安静にしてないと

大けがしたばかりなんだ

その義手だって まだ馴染んでいないだろ

別になんともない

二日もあれば帰ってこられると思うけど

この子の食事はちょっと多めにおいていくから

君もいい子にしてるんだよ

それじゃ あとはよろしくね

おい

引き受けたわけじゃないぞ

頼んだよ

強引なやつ

義手が痛む

あ 何とかならないのか これ

まって

そんなはずはないんだけどね

お前の体は純度が高い

いや 完成度というべきか

始まりの構造 魂の楔形に一分の隙もない

後から付け足したものは

それがどんなに美しいパーツや殻であっても

蛇足に見えてしまう

原質もときは異質に対する拒絶感だろうさ

拒絶感

拒絶反応の間違いじゃないですか

そんなものを起こす欠陥品は作らない

これは魂の問題

式である お前が感じてる錯覚だよ

だが問題ない 方法はある

それを早く言え

我慢して

こいつ

幹也を待ってるのか

お邪魔します

大変だって聞いてたのに

ぜんぜん元気そうじゃない

黒桐のやつが大げさなんだ

あいつ過保護にもほどがある

憎らしいほど元気っていうか

贅沢極まる言い分っていうか

弱ってるあんたが見られなくて残念よ

はい 差し入れ

食えるか こんなの

あんたね

こっちだって幹也に頼まれてしかたなく持ってきてあげたのよ

素直に

あんたのネコ

いや 黒桐が置いてた

嘘 すっごい可愛いじゃない

パン持ってたっけ

食べるかな

ほらほら お食べ

おい ネコにそんなもん食わすな

華麗にスルーされたわよ

なんかこの子 あんたに似てるわ

まあいいわ それじゃ 頼まれごとは果たしだから

お その猫

邪魔なら私が預かるけど 

いいよ 別に

そう

まぁっ 似た者同士だし 仲よくね

まぁ 今日が終わればあと一日で黒桐は帰ってくるわけだし

それぐらいだったら面倒を見てやるよ

いや あの 本当にごめん

まさか一週間もかかるとは

思わなかったんだ

お前な

君もいい子にしてたかい

少しは仲良くなった

ならない

そいつ 幹也がいないと遊びもしない

気ままな猫だよ

気のせいじゃないかな

君の里親も探してきたからね

明日には 新しいお母さんに会いに行こう

お前が飼うんじゃないのか

うん できればそうしたいけど

何かと 部屋を空けることも多い仕事だからね

こいつはお前と一緒にいたいと思ってる

そっか でも猫だってたくましいし

三日もすれば新し親にでも慣れて

いた いた

お前な ネコをなめるな

はい

ごめんなさい

夏の終わりの日

ここで

彼女は死んだ

二か月前

八人の少女が巫条ビルから飛び降り自殺をした

何の関連性もない少女の共通項は

誰一人として遺書がないこと

彼女 安藤由子も

その自殺者の一人だ

あまりにも不可解で 突然の彼女の死は世間を騒がせた

けれど私は

わたしだけは

優子が死を選んだ本当の理由を知っている

浅上藤乃 

その声 宮月さんですか

浅上藤乃

彼女は私の通う礼園女学院のちょっとした有名人だ

事故にあって 最近まで入院していた

視力は その事故の時にほとんど失ったらしい

ここでなにを

あなたこそ なぜこんなところに

私は病院の帰りなんです

ここは車も通らないだし

近道で

百合の香り

白い百合ですね

安藤が

好きだった花

やめて 無関係な人間から由子のことを聞きたくない

ごめんなさい

なんて無神経さ

目のことは同情する

だがこんな女に訳知り顔で優子のことを語られてたまるものか

私の言葉では届かないかもしれませんが

あまり思いつめないでください

宮月さん

浅上藤乃が有名な理由

ねえ あなた

七月に起きた連続殺人事件と関係があるって

本当

何のことですか

別に

ただ殺人鬼を知っていたら紹介してね

宮月さん

安藤さんのこと 本当に大切に思っているんですね

あたりまえだわ

親友だもの

一緒に行こうよ

由子

未来の自分を殺すことで

永遠に生きられるの

素敵だと思わない

彼女は永遠を得るために飛んだのだ

汚いだけの未来はいらない

その言葉の通りに

私が彼女と一緒に行くことができなかった

私は

置いていかれたんだ

やはり私だけ生きているわけにはいかない

でも方法はまた迷っている

ここから飛び降りるか

それとも

今晩は 宮月さん

浅上藤乃

あなた なんで

宮月さんこそ何をしているんですか

私は

自殺のまねごとですか

あなたには関係ない

そうよ 死ぬの この汚い未来とさようならして

由子と永遠になるの

そうですか

でもカッターじゃなかなか死ねませんよ

飛び降りでも下は水ですから

万が一ということもありますし

お手伝いしましょうか

なに

曲れ

なに いったい何が

宮月さん

七月に起きた殺人事件のこと

話してましたよね

その事件の被害者のこと 知ってます

どの死体も万力でねじられたみたいに殺されたんだそうです

とても人間業とは思えない力で

まさか

気が付きました

まさかそんな

あの噂

あの噂は

その殺人鬼って

わたしなんです

だめですよ

そんな そんな

私は この力を使って六人も殺しました

とても後悔しています

どんな理由があっても許されることじゃないです

宮月さんのお手伝いだって本当はしたくないです

あ だけど

六人も七人も あんまり変わらないかな

わたしだって

どうして

ねぇ 一緒に行こうよ

この未来を見捨てて

二人で永遠になるの

きっと素敵だわ

そう

誘ったのは無神経な私のほう

由子は困ったように笑って

わたしをたしなめる

そんなのはいつものこと

裏切者

汚いこの未来で生きて

汚れて死ねばいい

でも 飛び降りたのは

彼女一人

私は

置いて行かれた

後日 由子の家のことを私は知った

一家離散 多額の負債

死体で発見された母親

由子の未来は どうしようもなく行き詰っていた 

死へと誘う私の無神経な一言は

彼女にとって 未来の殺害だったに違いない

私が殺したも同然だ

宮月さん

たとえそれがどんなに苦しくでも

この世界は 綺麗だと信じてほしい

それはあの時

由子が 最後に口にした

なんで あなたが

私も 彼女に同じことを言われたことがあるんです 

でもその言葉の意味に

ずっと気が付けなかった

バカだったんです

たくさんの取り返しのつかないことをしました

すべてのことから耳を閉ざし

やがて何も見えなくなって

一度殺されかけて  ようやく気が付いた

浅上藤乃は

今はもう薄れてしまったそのひとめ

何を見たのだろ

何を見てきたのだろ

安藤さんの苦しみは

分かりません

彼女の死は決意かもしれませんし

ほかの理由があったのかもしれません

儚く強い

深い瞳

けれどこの言葉はきっと

祈りのようなものだったのでしょ

あなたにも

それは 届いたのならよいのだけれど

なぜか由子とダブって見えた

夜が明ける

それはひどく愚かで 残酷で

けれど 胸を突くほどにいたい

彼女の愛した祈りだった

寒くない 式

別に

驚いたよ 式から誘いにきてくれるなんて

おい 言い出したのはお前だろ

四年前の約束 覚えていてくれたんだ

お前のところ こういう日は団欒だろ

抜け出してきてよかったのか

あ それなら大丈夫

けど 

鮮花はちょっと表現できないような

味のある表情をしていたな 

おい

大丈夫なのか それは

うん 大丈夫

そうか

鮮花ちゃんなんって

三船駅からでした

礼園に戻る新年はこちらで迎えると

怒ってました

怒ってました

やっぱり

そうだ式 覚えてる

黒猫

夏に少しだけ預かってもらった

あ あいつか

あの後 佐藤親のところから逃げ出しちゃってね

なっ

何とか見つけ出したよ

それでまたしばらく預かっていたんだけど

結局そのまま居ついちゃって

飼えないんじゃなかったのか

だから実家で飼ってもらうことにしたよ

式の言ったとおりだね

先三か月ぶりに会ったんだけど

僕のこと覚えていたみたいだ

抱き上げたら 顔をなめてくれたよ

でも猫なのに なんであんなに顔をなめるのかな

もしかして 僕っておいしいのかな

それはな やっぱいい

お前自分で考えろ

うん そうだ

式も今度会いにおいてよ

きっとあの子も喜ぶし

いいよ俺は 

俺は今お前といるから

それでいい

なんでもない

今年も無事に新年を迎えられたね

そうだな

幹也は何を祈ったんだ

まぁ 当たり前のことをいくつか

どうせ世界平和とかそういうことだろ

うん そんなところ

ったく

見てごらんよ 式

雪だ 

そろそろ行こうか

式 今年もよろしく

どうか君と君を囲むこの世界が

これからも幸せてありますように

祈りは 未来への福音で満ちている

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